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東京地方裁判所 昭和56年(特わ)278号 判決

本店所在地

東京都豊島区巣鴨一丁目一一番一号

株式会社トミンシンパン

(右代表者代表取締役倉田一郎)

本籍

東京都北区西ヶ原四丁目三四番地

住居

東京都文京区小日向二丁目二三番一一号

会社役員

倉田一郎

昭和二年三月二一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官上田広一出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社トミンシンパンを罰金三五〇〇万円に、被告人倉田一郎を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人倉田一郎に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社トミンシンパン(以下「被告会社」という。)は、東京都台東区東上野三丁目三二番二号(昭和五四年四月一日以降は同都豊島区巣鴨一丁目一一番一号)に本店を置き、金融業を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人倉田一郎は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人倉田は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、利息収入の一部を除外して簿外の貸付金にするなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五二年二月一日から同五三年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億四三〇四万四四七八円(別紙(一)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、同年三月三一日、東京都台東区東上野五丁目五番一五号所在の所轄下谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一五二八万八三四四円でこれに対する法人税額が源泉徴収税額七万六二二二円を控除すると五一九万八九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五六年押第七五二号の1)を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五六三〇万一三〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額五一一〇万二四〇〇円を免れ

第二  昭和五三年二月一日から同五四年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億〇四八五万九六六四円(別紙(二)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、同年三月二七日、前記下谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二六六七万六六〇〇円でこれに対する法人税額が源泉徴収税額一〇万二九一一円を控除すると九七二万七四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の2)を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額八一〇〇万〇六〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額七一二七万三二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人倉田の当公判廷における供述

一  被告人倉田の検察官に対する供述調書三通

一  被告人倉田作成の申述書

一  倉田昭次、倉田耕市、伊藤忠篤及び相場秀夫(三通)の検察官に対する各供述調書

一  検察官、被告会社、被告人倉田一郎及びこれら被告人両名の弁護人作成の合意書面

一  検察官作成の未収利息に関する捜査報告書

一  検察事務官作成の未納事業税額に関する捜査報告書

一  豊島税務署長作成の証明書

一  東京法務局板橋出張所登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書二袋(昭和五六年押第七五二号の1及び2)

(補足説明)

一  弁護人は、最高裁判例(昭和四六年一一月九日第三小法廷判決・民集二五巻八号一一二〇頁、同月一六日第三小法廷判決・刑集二五巻八号九三八頁)が、未収利息については、「制限超過の利息、損害金は、たとえその約定の履行期が到来しても、なお未収であるかぎり、旧所得税法一〇条一項にいう『収入すべき金額』に該当しない」としながら、現実に利息が収受された場合には、「制限超過部分をも含めて、現実に収受された約定の利息・損害金の全部が貸主の所得として課税の対象となる」と判示しているのは前後矛盾しており、これを基にした本件受取(既収)利息の算出には疑問がある旨主張している。

しかしながら、右最高裁判例は、その説示する理由に照らし必ずしも理論的に矛盾しているとはいえないのであり、当裁判所もすくなくとも既収利息に関し右最高裁の判示するところは相当であると考える(なお、貸主は、裁判等によつて、既収分の制限超過利息を不当利得として返還すべき段階に至つた場合には、その時点で当然これを損金若しくは必要経費に計上することができるものと解される)。

二  次に、弁護人は、被告会社は貸金割賦弁済の途中で新たに貸付(以下「再貸付」という。)を行なう際、その貸付金額から旧貸付分の残存元本及び利息を回収し、これを差し引いた残額を借主に手渡しているが、この場合には、現実に授受した金額をもつて新たな貸付分の元本とし、旧貸付分は未回収とすべきである旨主張する。これに対して検察官は、右の場合、旧貸付と再貸付とは全く別個の金銭消費貸借契約であるとして、旧貸付の残存元利金は制限超過分を含めすべて回収されたとするとともに、再貸付についても約定どおりの元本について貸付が実行されたものとして課税所得の計算を行なつている旨釈明している。そこで、この点に関する証拠を検討すると、被告会社においては、事業として行なう貸付について、利率が利息制限法による制限を超過することは企業採算上止むを得ないものとして是認・実行しており、現にこうした利率による貸付を業務として行なうことにより、判示にもあるような利益を挙げていることが認められる。また、所論のような再貸付にあたつても、後日一部に貸倒れ、支払拒絶、不当利得返還請求などが残るのを別とすれば、サラ金とはいえ被告会社の貸付・取立方法が比較的穏当であることもあつて、借主側においても、旧貸付の残存元利金は制限超過の利息分を含め、すべて任意に支払うとともに、再貸付についても約定どおりの元本につき貸付が実行されたものと了解して以後の支払いに応じているのがむしろ常態であると認められ、もとより被告会社でもこの趣旨に添つた経理処理がなされているとみられる。以上のような被告会社の業態、経理処理状況ひいては貸付ないし取立状況などにかんがみると、その他特段の事情の認められない本件においては、たとえ旧貸付と再貸付との間に私法上の関連があるとしても、検察官主張の課税所得計算方法は相当であつて、これに誤りがあるとは思われない。

(法令の適用)

被告人倉田の判示各所為は、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法律により刑の変更があつたときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人倉田の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金三五〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

被告人倉田は、昭和四〇年一二月に個人経営の貸金業を始め、同四七年二月には被告会社を設立してこれを引継いだほか、大口の貸付業務や喫茶店を営む会社などを経営しているものであるが、本件は、被告人倉田において、被告会社の業務に関し、利息収入の一部を除外して簿外の貸付金にするなどの方法により、二事業年度にわたつて合計一億二二〇〇万円余りの法人税を免れたというものである。被告人倉田は、脱税の動機として、貸付源資となる裏金を蓄えて事業規模を拡大したかつたこと、貸倒れの発先やサラ金業者に対する法的規制の強化に備えて資金を蓄積しておきたかつたことなどを供述しているが、これらの事情はいずれもひとり被告会社にのみ特有なものではなく、特に斟酌すべきものとは思われない。脱税の方法は、税務申告をする心配のないサラリーマンや主婦に対する貸付だけを簿外にしたうえ、被告会社の営業所とは別の場所で身内の者を使つて簿外貸付の記帳処理などを行ない、コンピューター導入後は、公表分と簿外分とを別のコード番号にするなど巧妙かつ悪質といえる。また、本件脱税額も前記のとおり高額であり、ほ脱率も九割近いものであるほか、被告人倉田は、個人経営の時代から引続き利息収入の一部を裏にするなどしており、納税意識が稀薄であつたといわざるを得ない。以上の諸事情によれば、被告会社及び被告人倉田の刑責は、いずれも軽視できないものがある。

しかしながら、他方、被告人倉田は、簿外による利息収入等のほとんどを貸付資金に充てるなどしており、個人資産などとして蓄積していた事情は窺えないこと、被告会社の貸付、取立の方法は、一部のサラ金業者にみられるごとく強引なところはなく、比較的穏当であり、このことが同社の成功並びに発展の理由の一つにもなつていること、被告会社では、本件起訴分を含めて昭和五〇年一月期分から四事業年度にわたり修正申告を行ない、各年度分の本税を完納するとともに、法人事業税(同五三年一月期ないし五五年一月期分は完納)、重加算税、都民税等につき、分割のうえ納付すべく努力していること、被告人倉田は、今後は正しい記帳及び申告を行なうことはもちろん、貸付金利を低下させることなどを含めて、さらに健全な事業に向けての企業努力を行なうことを誓約していること、本件が新聞報道されたことにより、被告人倉田のみならずその家族をも含めて、相応の打撃を受けたこと、同被告人には前科前歴のないことなどの有利な事情も認められ、そのほか同被告人の反省の程度、健康状態など本件にあらわれた全ての事情を考慮し、主文のとおり量刑する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)

別紙(一)

修正損益計算書

株式会社 トミンシンパン

自 昭和52年2月1日

至 昭和53年1月31日

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

株式会社 トミンシンパン

自 昭和53年2月1日

至 昭和54年1月31日

〈省略〉

別紙(三)

ほ脱税額計算書

株式会社 トシンシンパン

◇52,2,1~53,1,31◇

〈省略〉

◇53,2,1~54,1,31◇

〈省略〉

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